コーチがベンチにいないとどうなるのか?
ふとした思いつきから、サイレントリーグは誕生しました。
「コーチはベンチに入れない」各クラブのコーチに、これを承諾してもらいます。なので、試合を進行させるのは「子どもたち」となります。
サイレントリーグは、コーチ・保護者の口出しが禁止されているサッカー大会で、これまで約40チームの子どもたちが、この方式の大会に参加しました。
今回のサイレントリーグ
日付:2023年1月22日(日)
場所:愛知県岡崎市龍北総合運動場
対象:小学4年生
ますます深まる見どころ
回を重ねるごとに、サイレントリーグのおもしろさが見えてきました。
たくさんの指導者が、ここで子どもたちのプレーを観察し、新しいヒントを得たようです。
僕が好きな3つのポイント
多くの指導者は、いつもと違う子どもたちの姿を、ここでは見れると言います。そんな子どもたちの姿の中でも、僕がとくに好きな3つのポイントを書きます。

- コミュニケーションの量の多さ
- 全員の頭がフル回転する
- リーダーの即断即決
【1】コミュニケーションの量が多い:一日中子どもたちの声が聞こえます。サイレントリーグは、予選が終わったタイミングでフリータイムを設けますが、そのときも猛烈に議論しています。このコミュニケーション量の多さは保護者にとって、ものすごく印象に残るようです。
【2】全員の頭がフル回転している:仲間との議論、自問、そして試合を観察しながら、全員が試合に関わっているように見えます。ピッチから出る選手も、交代で入る選手もきちんと状況を把握していて、スムーズな修正が瞬時に行われます。
【3】決断がすごく早い:たとえば誰かが怪我した時、誰が交代で入るか、すぐに決まります。【2】に関連していると思いますが、周囲の声を取り入れ、状況を判断したリーダーがすぐに選手交代を指示します。
これら3つのポイントを僕はすごく好きです。仲間と勝利を目指す、一生懸命でひたむきな姿は、見る人を引きつけます。ただ一部のチームではリーダーの力が強すぎて、選手起用について子どもたちの中から不満の声も上がっていたようです。
自問し、考えるチカラを養う

コーチがいないサッカー大会は、子どもの考えるチカラが養えるはずです。なぜなら、いま何をすべきか、自分に問わなければ、試合に関わる機会を得ることができないからです。
仲間の議論を眺めながら、発言のタイミングを伺ったり、どうすればチームメイトに伝わるか、いろんな方法を使い自分をアピールしています。
こうしてほとんどの子どもは、自分に問い続けながら、サイレントリーグの1日を過ごします。
変化を遂げたチームの実話
ここでひとつ、歴史ある少年サッカークラブが、サイレントリーグへ参加したその後の話しを紹介します。今回は出場していない学年のコーチと試合をいっしょに観ながら、今の様子を話してくれました。

ABチームの廃止
サイレントリーグに参加した後、AチームとBチームの分け方をやめました。これはすごく大きな改革でしたね。
レベルに関係なくミックスにして2チームに分け、メンバー交代やミーティングなど、僕たち大人がやってたことのほとんどを、子どもに任せました。
そうすると、やっぱりというか、ふつふつと湧き上がる、不安の声が出始めましたね。さすがにスタッフも疑心暗鬼になった時期がありましたよ。
苦労を乗り越えてからの急成長
上がってくる疑問の声に、誠意をもって対応していたんですけど、やはりチームを去っていく子どもがいました。そうなるかもと予測してはいたものの、幼い頃から指導してきた子が去っていくのは、やっぱり辛かったです。
でもミックスにしてから数ヶ月で、子どもたちの様子が、明らかに変わり始めたんですよ。そして、保護者の様子も変わってきて、ミックスにすることの意味が伝わり始めました。ミックスにすると全員が成長するって。目に見えて感じられる、すごく大きな変化でしたね。
いちばん変わったのは大人でした
あれから2年たったんですけど、誰もが納得してくれています。小学年代で最後の公式戦も、Aチームを強化していれば、もっと勝ち進んだと思います。でもそうしなくても、両チームが上位に進出できたことは驚きでした。しかも子どもたちが試合のほとんどを、マネジメントした結果ですよ。
自分たちでやれたこと、全員でやり抜いたことは、子どもだけじゃなく、僕たち大人にも自信を与えてくれた結果でしたね。子どもたち以上に、僕たち大人がみんな変わりました。
サイレントリーグがもたらす2つのこと

「コーチがベンチにいないとどうなるのか?」で始めたサッカー大会が、私たち指導者に何をもたらしてくれるのかを書きます。
一人のサッカー指導者としての意見です。
指導の成果が見えてくる
おそらく普段の活動で指導されているとおりなのでしょう、準備の手順や試合中の言葉、ベンチでの様子にそれぞれのチームの特徴が見られます。
「この日、コーチは自分の指導の成果に出会います」
サイレントリーグでは、コーチの期待どおりに事は運びません。そして多くのコーチは、公式戦よりも緊張すると言います。「できていたことも、僕がいないと出来なくなるようでは、指導を見直すべきですね」という感想を聞かせてくれるコーチもいます。
だからこそ私たち指導者は「スポーツを通じた子どもの教育」にもっと責任を持ち、考える必要があるのではないでしょうか。

ひとのせいにしない「自分力」が育ちます
ここでの結果は、ぜんぶ自分たちの結果ということを、すべての子どもたちが認識しています。なぜなら、誰一人として負けた原因、うまく行かなかった理由を、コーチのせいにすることがないからです。実際に、これらの声を今まで一度も聞くことはありませんでした。
子どもたちはとても素直なんです。みんなでコーチの教えをなぞりながら、一生懸命勝利を目指しています。
自分の行動、自分の考え、自分のことについて責任を持てる「自分力」。この、ひとのせいにしない自分力を育成することに、スポーツを通じた子ども教育の「本意」があるのだと考えています。
そしてこの自分力は、子どもの行動や考え方を強制(規制)して育つものではなく、集団に対し能動的になれる環境の中で育つのだと感じています。

次へチャレンジ
コーチがベンチにいない大会は、僕が考えていたよりさらに深く、そして多くの「気づき」を与えてくれます。
結果や能力判定はもっと後でいいと僕は思います。もう少しだけ子ども目線に下り、子どもを励まし勇気づけ、子ども自身の「自分力」を高めることが最優先だと考えます。
サイレントリーグが次のステップへ進めるよう、これからみなさんと一緒にチャレンジしていきたいと思います。これから時代の子どもスポーツ発展のため、みなさまの協力をお願いします。
